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「なぜか」の発想法による、平成21年度【問1】の解説

更新:平成21年11月1日

(1)イントロ

法律的な発想法は,「なぜか」を考えることが出発点になります。

この「なぜか」の発想法が出来ない人は,応用が効きません。
事例をチョコッと変えられると,同じテーマなのに次の年には出来ないなんていう事もザラです。

でも慣れれば,法律的な発想法なんか簡単!

そこで今日は,宅建試験平成21年度【問1】をまな板に乗せて,法律的な発想法による独自の解説を試みたいと思います。

なお,この記事では「伝統的な民法理論」や「意思表示の語源」の話もしますが,これらは皆さまに法律に興味を持って頂くためにするものであり,これらを知らないと宅建に合格しにくい,という意味じゃないです。
 

(2)【問1】の問題文

民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」と定めている。これに関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
(1)意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
(2)表意者自身において、その意思表示に瑕疵(かし)を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない。
(3)意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。
(4)意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない。
 

(3)「なぜか」の発想法

1.伝統的な民法理論 №1

その昔(明治時代),民法の起草者は,表意者(錯誤した本人)を保護するために,錯誤の条文(民法第95条本文)を作りました。

民法を作った人は,「つもりがないのに,不注意で(過失で)」契約してしまった人の財産を保護しようとしたのです。

例えば,AがBに甲土地を売るつもりで,不注意で,売るつもりのない乙土地を売るとBに言ってしまったとします。

この場合,民法を作った人は,Aの財産である乙土地を保護するために,AがBに乙土地を売ったことにはならないようにしました。つまり,AB間の乙土地の売買契約を無効としたのです。

それが,問題文にある「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」という条文(民法第95条本文)なのです。

だから,民法第95条本文があるのは「なぜか」と問われた場合,伝統的な民法理論によれば,それは表意者(錯誤した本人)を保護するためだよ! と答えることになります。

なお,この伝統的な民法理論ですが,現在は死んでしまったわけじゃないです。今もちゃんと生きています。

したがって,平成21年度【問1】の(2)は正しい肢になります。

肢(2)は,「表意者自身において、その意思表示に瑕疵を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない」と書いてありますが,民法第95条本文があるのは「表意者(錯誤した本人)を保護するため」なので,表意者自身が民法第95条による意思表示の無効を主張する意思がないのに,第三者に無効主張を認めさせちゃうのは矛盾だからです。

2.伝統的な民法理論 №2

民法を作った人は,意思表示に欠陥がある場合を3つ想定しました。

イ.「つもりがないのに,わざと(故意で)」契約してしまった場合で,それを表意者一人で行ったとき
ロ.「つもりがないのに,わざと(故意で)」契約してしまった場合で,それを相手方とグルになって(通謀して)行ったとき
ハ.「つもりがないのに,不注意で(過失で)」契約してしまったとき
の3つです。

上のイ.が心裡留保(別名:単独虚偽表示=民法第93条),ロ.が虚偽表示(別名:通謀虚偽表示=民法第94条),ハ.が錯誤の条文(民法第95条)です。

そして,イ.~ハ.を比較して,最も表意者を保護しなければならないのはどれかな? と考えました。
「やっぱりハ.だろう!」という結論になりました。なぜなら,イ.とロ.は表意者がわざと(故意で)変な事したけれど,ハ.だけは不注意で(過失で)したに過ぎないからです。

大昔から,人間に不注意(過失)はつきものです。
だったら「単純なあわて者は保護してやろう」と,民法を作った人は考えました。

だから,民法第95条本文があるのは「なぜか」と問われた場合,伝統的な民法理論によれば,それは単純なあわて者を保護するためだよ! と答えることになります。

この意味での伝統的な民法理論も,現在は死んでしまったわけじゃないです。今もちゃんと生きています。

したがって,平成21年度【問1】の(1)は正しい肢になります。

肢(1)は,「意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない」と書いてありますが,民法第95条本文があるのは「単純なあわて者を保護するため」なので,すごいあわて者(重大な過失があった者)が保護されないのは当然だからです。

3.伝統的な民法理論 №3

伝統的な民法理論では,意思表示という法律用語は,「効果意思表示行為」からそれぞれ二文字を抜き出して,合成したものがその語源とされます。

AがBに甲土地を売る場合,Aの意思表示は,
・効果意思…Bに甲土地を売ろうと決心した
 ↓
・表示行為…Bに甲土地を売るよと表示した
で構成されると考える。これが伝統的な民法理論です。

4.現代の錯誤理論

明治時代に作られた民法も,時代の波には勝てません。
太平洋戦争が終結し20世紀も半ばになると,資本主義が高度な発達をみせ,取引社会もますます複雑化してきました。

そうなると,伝統的な民法理論もそのままでは時代にそぐわなくなりました。
その一つが,はたして意思表示は「効果意思+表示行為」という単純な図式だけで説明しきれるのだろうか? という疑問でした。

もっと言えば,「動機」も意思表示の内容になり,法律行為の要素を構成するのではないか? という疑問です。

動機というのは,効果意思を決定する前の心の動きのことです。
上の3.で書いたように,AがBに甲土地を売る場合,「Bに甲土地を売ろうと決心した」のが効果意思ですが,その効果意思を決定する前の心の動きが動機です。
例えば,「今のうちに甲土地を誰かに売っておけば課税されないと思った」というのが動機です。

考えてみれば,動機は効果意思と良く似ています。
動機も効果意思も,表意者の内心に秘められた心理だからです。

だとすれば,動機も「効果意思と同じ手続きを踏むことを条件にすれば」,意思表示の内容にできる! と現代の錯誤理論では考えられるようになりました。
判例も同じ立場です。
最高裁判例昭和29年11月26日では,「意思表示をなすについての動機は,表意者が当該意思表示の内容としてこれを相手方に表示すれば法律行為の内容になる」と言っています。

AがBに甲土地を売る場合,Aの効果意思(Bに甲土地を売ろうと決心した)は,Aの表示行為(Bに甲土地を売るよと表示した)を経由して,必ず相手(B)に伝わります。

だったら,Aの動機(今のうちに甲土地を誰かに売っておけば課税されないと思った)も,相手(B)に伝わることを条件に,意思表示の内容にできる!
これが現代の錯誤理論及び判例の考え方です。

したがって,平成21年度【問1】の(3)は正しい肢になります。

肢(3)は,「意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる」と書いてありますが,動機を相手方に明示的に表示すれば,その動機が相手に伝わるからです。

以上のように考えると,平成21年度【問1】の(4)は誤りの肢(正解肢)になります。

肢(4)は,「意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない」と書いてありますが,動機を相手方に黙示的に表示しても,その動機が相手に伝わるからです。

黙示的な表示というのは,明確な言葉や文字によらず,周辺の事情を察知した上で理解される意思表示です。現代の流行り言葉では「空気読め=KY」というヤツですね。空気を読めば明確な言葉や文字によらずとも真意が分かっただろう!といことです。
そもそも意思表示は,明示・黙示を問わず,それがされた時の「あらゆる事情を総合的に判断する」必要があります。明示の意思表示に分類されるものでさえ,実際の細かい点は明確でない場合が多々あるからです。だから民法の解釈としては,黙示的な表示も明示的な表示と同じ効力を持つのが原則です。
最高裁判例平成元年9月14日も,「動機が黙示的に表示されているときでも,それが法律行為の内容になることを妨げない」,と以上の考え方を支持しています。

(4)蛇足

今日は11月1日ですが,正式発表(12/2)まで1ヶ月もありますね。
ヤキモキしても始まりません。
そこでこの記事は,そんな方への建設的なメッセージの意味も込めて書きました。

また今年の【問1】について,私以外の解説を調べた人も結構いるでしょう。
そこでされている解説には,「取引の安全」だとか「第三者の保護」だとかの活字が入り乱れていたかも知れません。

実は,民法を解説するのに「取引の安全」や「第三者の保護」を持ち出すほど宅建講師にとって簡単なことはないのです。私も時々やっちゃいますけど(笑)。

でもそれじゃ,事例をチョコッと変えられると,同じテーマなのに次の年には出来ないなんていう事もザラで,応用が効きません。「取引の安全」や「第三者の保護」という言葉は非常に抽象的であり,受験者の方を「分かった気にさせるけど,実は理解してない」危険に陥れる魔物なんです。

以上から,法律的な発想法による独自の解説を試みたいと思って書いたのが,この記事です。
録音CDで話せば5分くらいで終わることを,長々と書いてしまいました。何かのお役にたてれば幸いです。



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